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【インタビュー】その場所でしか出会えない体験をつくる写真展を目指して。グラフィックデザイナー・鷹巣由佳


 
-写真作品を制作しようと思ったきっかけはどのようなことだったのでしょうか?
2014年ごろから写真作品を制作し始めました。きっかけは2013年にデザインの聖地と謳われる北欧3ヶ国に旅に出かけたことです。これらを形にしようと思い、撮影した写真をまとめた写真集を制作したのですが、その作品が富士フィルムのコンペティションの審査員特別賞になり、自分で撮った写真を自分でデザインして形にするという経験はその頃からのスタイルになりました。
また、この時にの制作をきっかけに展示も同時に行いました。
展示と作品がセットになっている発表スタイルもこの頃から続けています。
いつもたくさん写真を見せることで感じることを体感してもらいたいので、1枚や数枚を壁にかけて見せる一般的な写真展示というよりは、本の状態の方がテーマなどがより伝わりやすいと思っています。
 
-それまで、写真について学んだり、写真作品を作るベースの経験はご自身にありましたか?
グラフィックデザイナーをしているので、どんな写真にしたいかラフを作ったり、それをもとにスタジオでの立ち合いや、カメラマンさんと写真のデータを確認をしたりなどの関わりはありますが、ほとんど独学です。
でも、小さい頃からスナップ写真は好きでよく撮っていて、今でもいちばん撮る機会の多い写真のジャンルかもしれません。
 

 
-今回のまちなか芸術祭の展示のコンセプト「予期せぬ予期」にはどのような思いが込めれているのでしょうか?
今年の春に京都の「KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭」で展示をして、8月には大阪で展示をしました。
今回のとよたまちなか芸術祭の内容はそれらと同じテーマの展示です。
「予期せぬ予期」という感覚は自分の中ではかなり大きなテーマとして取り扱っていて、旅ではアクシデントもありますが、そういった経験がアイデアになったりして面白い、という意図が入っています。
展示作品について、内容は同じなのですが、会場ごとにその場所の自然光の入り方 だったり、環境が違うので作品の見え方は全然違いますね。
「KYOTOGRAPHIE」では会場に西日が入る時間に、作品に光が当たってステンドグラスのような演出になっていたりなど、長い期間開催している展示だとそのような時間による楽しみ方の違いもできると思います。
 
-本日もいくつかカメラをお持ちですが、撮影の際のカメラの使い分けはどのようにされているのですか?
カメラは何十台か持っていて、海外でも旅先で撮影することが多いのですが、その旅で持っていくのは大体5個くらいです。
フィルムの感じが好きなので、フィルムは必ず持っていきます。
カメラはできるだけ周囲に撮影をしている感じを出さず、自然なタイミングを撮影できるようコンパクトなカメラを持っていくようにしていますね。
 

 
-鷹巣さんの写真作品は紙だけでなく、アクリルや布など様々な素材にプリントされていますが、出力素材を選 ぶ基準がありましたら教えてください。
今回の会場である参合館のように自然光によって昼と夜で印象が変わる場所は布での出力が適していると思いました。
通常の写真展示の方法と言うと、ギャラリーでスポットを調整して作家が見せたい作品の状態をずっと保っていると思うのですが、その時にしか見られない状態の方が面白いなと思い、レイアウトしました。
アクリルは少し特殊な加工で、印刷方法も、写真のモチーフも見えて、透け感もあるギリギリのラインに調整してプリントしています。
 
-今後のご自身の制作や、豊田市でやってみたいことがありましたらぜひ教えてください。
展示空間やその場所にあわせて作品をつくるということを重視しているのですが、作品発表をし始めた初期の頃のグループ展では、自分がこの作品群や空間の中でどのように構成すれば良いかを考え、結果的に今回展示したような大きな布にプリントした作品にしました。
もともと一般的な風景写真の展示というよりはインスタレーションのようなアウトプットをすることが多いです。
写真はいろいろなサイズや方法で作品を出力をすることができるので、見せ方を意図的に変えることができます。
例えば指輪や腕時計など、実は小さいモチーフを大きくプリントすることで、実際の大きさがよくわからなくなるという現象が起きるので面白いですね。
展示にきていただくとそのような現象を実感いただけると思います。
今の時代はデジタル媒体で画像や写真、様々な情報が得られますが、展示ではその場に来ないと生まれない体験をつくりたいと思っています。
逆の発想で、写真集では展示を持ち運んで、また違う見方をしていただけると良いですね。実はとよたまちなか芸術祭に出展するにあたって、豊田市のことについて調べました。
小原和紙を実際に漉きに行って、素材として是非使ってみたいなと思いました。
豊田で写真を撮影している方もいらっしゃると思いますし、そういった写真を通したコミュニティも豊田で広げられたらと思います。
 
[インタビュアー:森 かん奈(とよたまちなか芸術祭2022コーディネーター)]

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〈鷹巣由佳(たかすゆか)〉
愛知県生まれ。ヨーロッパとアジアを中心に、旅と日常の境界線や言葉にできない何かを様々な視点での表現を試み、紙をはじめ様々な素材を用い、AI等の身近な先端技術と、偶然や確率考現学的観点から「予期せぬ予期」を探る作品を制作している。2021年創設KYOTOGRAPHIE×Ruinart「Ruinart Japan Award」初代受賞。写真集などを世界各国のアートブックフェアで販売・展開。

2022.11.05 Sat
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