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【インタビュー】時間を積み上げる。ファッションデザイナー・日下宗隆にとってのアートとは

-はじめに、作品を制作するようになったきっかけをお伺いしたいです。
日下:小さい時から、手を動かすことは好きだったと思います。大学に進学する時に、勉強することよりも、手を動かして何かをつくることを学びたい、という気持ちが強かったです。実家が豊田なので、豊田から通うならどの学校がいいかな、とかそんな感じで絞っていったので…(笑)。なので、めちゃくちゃ服大好き!という理由で進学したというよりは、ちょっとなんか、ものづくりの方に行きたいなーとか、自宅から通えるところがいいなとか、あと入試の内容で絞っていってその中で決めました。もちろん、ファッションには興味があったので、今まで続いてきたということはあります。
 
-では小さい頃からファッションデザイナーを目指していたとか、なりたかったとかではなく、徐々に徐々に…という感じだったんですね。
日下:小さい頃はパティシエになりたかったんですよ。全然違うじゃないか!っていうね(笑)。自分でも本当にここまで続けていることにびっくりしています。ストーリー的に考えると物足りない感じかもしれないですけど、本当に結果的に流れ着いたという感じです。ただ、本当に好きだから続けてきたんだろうな、っていう感じで今に至っています。
 
-自分がその時選べる道を進んだ結果、ということですね。
それでは続いて、過去のTAP magazineの記事(REPORT|[life]Works ファッションデザイナー・日下宗隆個展
で、「ストイックに自らの理想を突き詰め創作することもいいことだと思うけど、それよりも与えられたもの(たとえばテキスタイルからデザインするのではなく、すでにある生地)から、『自分が選択する』ことでオリジナリティを出していきたい」とありますが、こう思うことになったきっかけは何ですか?

日下:きっかけですか…。自分は三人姉弟の末っ子で、年の離れた姉が2人いるんです。昔から姉の後ろを回ってじゃないですけど、自分がこれをしたいというよりは、真似をしたい、後ろをついて行きたいというか。気質的に、こうしたいというのが強いタイプではなかったです。ただ、自分のある選択肢の中で選んでとか、ひとり遊びしてとか。あまり広く「わー」って(関わっていく)感じではなかったので。そういうところから、今に至るスタートがあるのかな、と。そういう歴史があって、何となく制作を続けていく中で、コンプレックスじゃないですけど、アーティスト性とかそういうのが無いんじゃないかって思っていました。作品をはじめ、つくるもの、選ぶものを見てくれる人が、作品などをみて「~らしいね」「つくった人が見えるよ」というのを聞く中で、「自分が選ぶ」という行為が、自分らしさというの(をつくるの)に繋がっているんだと思えるようになって、今に至るのだと思います。
 

 
-作品制作で基本にしているコンセプトや、ここだけは譲れないポイント等があればお聞かせください。
日下:自分がつくるものは、細かいものとか単純なものとかが集まって大きくなって、ひとつの作品を成すものが多いです。全体でまとまった時の完成度と、ひとつひとつの積み上げていくことの2つを、どちらかになり過ぎないようにしています。ただ細かいものが集まっただけのものにならないように、その作品としてのまとまりというか、完成度が高められるというのを、どちらの点も守って制作するというのは心がけていると思います。
あと、制作している最中に、アクシデントとか、自分が狙った通りにいかないことがすごくよくあるんです。そうなったときに、いかにそのアクシデントを良い風に拾い上げるか、というのは意識していて。「あー失敗したからもうダメだー」じゃなくて、「失敗しちゃったけど、これはどうしたら上手くいくかな」とか、「あれ?これはこうなったらいいんじゃない?」みたいなのを拾い上げたりするのを、制作する上では結構重要にしているのかな。
 
-その失敗やアクシデントが起きたことによって予想外のものができてしまったこともありますか?
日下:そうですね。のんびりしたような人間なので、普段から危機感みたいなのは持ってないんですけど(笑)。でも制作とかさせていただくと、期限とかあるじゃないですか。それで、絶対にここまでにあげなきゃいけないっていう状況下で、途中「わー!」みたいな(アクシデント)になると、すごい、その瞬間に「やばいやばい!」「でも絶対にどうにかしないといけない」という気持ちになるので、感覚が研ぎ澄まされるじゃないですけどね。
結構コンペとかに作品を出すことが多かったので、そうなることが多かったですね。なんとか手持ちのカードで最大の役を作る、みたいな、いかに組み立てるかみたいなのはよくあります。
 
-それがさっき話していた“与えられたものから選び抜く”ことにつながっているのかもしれないですね。
日下:そうですね。つながっているかもしれません。
 

 
-日下さんはファッションデザイナーとしても活躍されていますが、アートとデザインの違いについて、日下さんご自身はアートとデザインの境目はなんだとおもいますか?
日下:自分のイメージだと、アートは個人の人間性やバックグラウンド、生きてきた道みたいなのが表現・内包されているものがアートなのかな。デザインは、鑑賞者っていう人の意識、見ている人に対しての提案みたいなのがデザインなのかなと思っています。ファッションは結構微妙なラインなので、自分はそのどちらかと言うと、アート性というよりかは、デザイン寄りの方になるのかなと思っています。
例えば、服だったら“着られる”とか“着心地”だとか、あとは“どう見えるか”を気にしてつくるタイプだと思うので。つくるプロセスなんかは、自分の人間性を反映していると思うんです。小さいのをちょこちょこ…とか。だから、完全に“これはアートです!”って言いきれるか、っていうと、一応ものづくりはしているけど、みたいな(笑)。そんな感じの意識ですかね。
 
-ではそこに関連して、ファッションデザイナーとして衣服をつくる時と、今回のようにアート作品をつくる時とで、ご自身の意識の違いとか、気を付けていることはなんですか?
日下:やっぱり服は、その着るシーンとか着る人とかを考えてつくるのですが、アート作品の方は会場の規模感とか、雰囲気とか。あとは見た時のインパクトとかを意識するところが違うのかな。やっぱりインパクトですかね、1番気になるのは。見た人が少しでも驚きとか、心が動くみたいなことが起きてほしいなっていう思いで作っていたりしています。
自分はそんなに革新的な人間ではなく、すごく新しいことを考えていくとか、すごく先を見た提案ができるわけではないので、泥臭い方法で、びっくりというか、「おおー」と思ってもらえる感じに出来たらいいなと思います。
 

展示会場の豊田市近代の産業とくらし発見館にて

-それでは、今回の芸術祭に出展する作品についての構想をお聞かせください。
日下:今回、豊田の自動織機で織られた布を使うということで、自動織機がすごく長い間現役で動き続けているということと、織るスピードがとてもゆっくりだけど良い物ができるというところから、自分も少しずつ積み重ねていって1つの作品をつくることのが共通していると思っています。それを“時間を積み上げていく”ということと捉えて、単純なかたち、シンプルなかたちが集まって1つの大きなものができあがることを表現出来たらいいなと思います。
 
-最後に、将来ファッションデザイナーやアーティストになりたいと思う人たちに向けて、メッセージをお願いします。
日下:自分も続けていけるのかという不安は常にあるんですけど、ただ続けなかったらそれまでなので。どんな形であっても思い続けることとか、やらなきゃなっていう使命感みたいなものを持ってやっていくと、何か声をかけていただけたりするのかなと。今の時代だとSNSとか自分で発信することも大事かもしれないけど、そういうのが苦手な人とかでも、続けていけば何かあるんじゃないかなと思います。
 
-ありがとうございました。これでインタビューを終わります。
 
[インタビュアー:中根 彩矢香(とよたまちなか芸術ラボ研究生*)]
 
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〈日下宗隆/くさかむねたか〉
1988年愛知県豊田市生まれ。高校を卒業後、名古屋学芸大学ファッション造形学科に入学し、被服構成やファッションデザインなどを総合的に学ぶ。大学卒業後は同大学大学院にでファッションデザイン分野において学びを深めるとともに、ファッションコンテストでの発表を精力的に行う。大学院修了後は同大学で大学職員として勤務し、業務と並行して作品制作や個展開催などを行っている。

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*とよたまちなか芸術祭では、「とよたまちなか芸術ラボ」を開講して、アート分野における次世代の実践者(活動の企画運営者となる人材)の育成に努めています。
その中で今回、とよたまちなか芸術ラボの研究生が、お話を聞いてみたい出展者の方にインタビューを行うプログラムを実施しました。

2022.09.14 Wed
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