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members’ column vol.5
text : もりかんな
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Recasting Club メンバーのコラムをご紹介します。

「忘れられない場所/感覚」 もりかんな

学生の頃から何回も読んでいる小説があります。 小池真理子さんの「レモン・インセスト」という小説です。 内容を頭に入れたいわけではありません。 自分のすべき事ががわからなくなった時、 今の自分の気持ちを確認したくて手に取ってしまいます。

「前読んだ時、自分はこう思っていた。」 「でも今はこう思っている。」

気持ちを確認しながら、 今、自分が何をしたら良いのか考えたりします。 効率が悪い、私ってアナログだなあ、と思うこともあるけれど、 立ち止まって過去をじっくり振り返ることは私のやり方であり、 昔から大好きなのです。

『レモン・インセスト』と同じ役割の場所が豊田市にたくさんあります。

生まれて初めて豊田市美術館に行ったのは、 確か、小学校の課外授業の時です。 先生の話や作品の説明は全然耳に入ってこなくて、ただただ見たこともないモノに圧倒さ れていました。
村上隆の『ランドセル・プロジェクト』 ヨーゼフボイス の『ジョッキー帽』 。
理由は分からないけれど、なぜか好き。という感覚を覚えました。 学校に戻った後、印象に残った作品について感想文を書いて、発表した覚えがあります。 そこで私は何も書けませんでした。 好きな理由が分からなかったからです。 「私はこの作品が好きです。それは~だからです。」 友達の発表を聞いて、なんで分かるのかな、すごいなあと思っていました。 それ以来、もっと自分の好きを見つけたいと思うようになりました。

第二展示室から第三展示室に行く途中のスロープから 豊田市のまちを見下ろしました。 初めてみる豊田市のまちの姿でした。 「この感じ、どこかで感じた事ある。」 景色を見た瞬間思いました。 まだデジャヴという言葉は知りませんでした。

「この感じ、どこかで感じた事ある。」 豊田市美術館で感じたこのデジャヴ感を今でも基準にしています。 初めて訪れた場所で、
「この場所の空気はあの街の空気と似ている」 何気なく耳に入ってきた音楽に、 「この音楽を聞いた時の気持ちはあの曲を聞いた気持ちと似ている」 自分の感性と他者との間にあのデジャヴ感を挟むのです。 あのデジャヴ感を忘れそうになった時には、もう一度豊田市美術館に行きます。 そこで、スロープに行き、感覚を取り戻すのです。

「クリーニング屋さん行くけど一緒に行く?」

保育園にあがる前の頃、マツザワクリーニング店に行くのが楽しみでした。 目的はお店の受付の向かい側に置いてある水槽。 ネオンテトラという魚の名前をそこで初めて覚えました。 母親が洋服を受け取った後、長い世間話の間もずっと眺めていた事を覚えています。 「今日は魚の数が少なかった。」

「水草の影に魚の卵を見つけた。」 「今日は新しい魚が増えていた。グッピーと言うらしい。」 帰り道の車の中で、母親に観察記を報告するのが好きでした。
小学校にあがった頃から、マツザワクリーニング店に一緒に行くことがなくなりました。 水槽を眺めに行く場所ではなく、一般的なクリーニング店と同じ意識になっていました。 母親に声をかけられても洋服を託すだけで、付いていきたいと思わなくなりました。

社会人になって初めて一人でマツザワクリーニング店に行きました。 友達の結婚式に着て行ったドレスを洗うためです。 受付を済ませ、足早に店を後にしようとした時、 お店の水槽がなくなっている事に気づきました。 自分との関わりが無くなってしまったようで、急に悲しくなりました。 「熱帯魚、もういなくなっちゃったんですか?」 「そうなの、だいぶ前にやめっちゃったんです。」 「幼い頃、母親に付いてよくお邪魔していました。ここの水槽がすごく好きだったんで す。」



関わりを取り戻そうと言う気持ちからか、私は松沢さんと話し始めました。 途端に母親について行ったあの頃に戻ったようで、安心しました。

本を読む度に同じ感覚になる。 その場所に行く度に同じ感覚になる。 その感覚になるために、その場所に行く。 わたしが好きで、陥りたいその感覚や空気感とは一体何なのか。

懐かしいとは少し違うような、でも近い。 ただ、その場所が、そこで陥った感覚が今の自分を作ってくれたのだと思います。 






UPDATE : 2020.06.05
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members’ column vol.5

もりかんな

豊田市出身。リキャスティングクラブメンバー。
2019とよた市民アートプロジェクトTAP編集部。
とよたとアートと食と自然が好きです。

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